東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)181号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について判断する。
成立について争いのない甲第九号証(昭和五六年三月三日付手続補正書)によれば、本願1の発明の明細書の特許請求の範囲の記載は、事実摘示第二、二、1のとおりであり、これによれば本願1の発明は、縦続する通信系の交換局間において、情報信号を専用に伝送する線路的手段を具備する同時交換方式に関するものであり、情報信号が信号を専用に伝送する線路的手段から分岐入力されて記録される手段を具備していることを一つの構成要件とするものであると認められる。
ところで、審決は、引用例(成立について争いのない甲第四号証)には「縦続する通信系の交換局(A´局、B´局)間において、情報信号を専用に伝送する線路(伝送路4´)と、……情報信号……を分岐入力して記録する手段(記憶装置10´)……を備える交換方式」が記載されていると認定した。
そこでこの点について引用例の記載を検討してみると、引用例の発明の詳細な説明の項には、「B´局においては受信装置7´によつて増幅復調された信号が走査装置8´によつて一定周期毎にサンプルされ、他の伝送路から受信された信号と共に時分割的に配列される。この信号列は受信制御装置9´によつて数字(あるいは語)の区切りを検出されて記憶装置10´の所定位置に査定周期毎に一ビツト宛書込まれる。……一つの呼に関する全情報の受信終了を受信制御装置9´が検出すると、直ちにB´局交換機の共通制御装置11´へこれの受入れが可能か否かを打診して、可能ならば全情報を並列に伝達し、また不可能ならば次の近接まで情報は記憶装置10´に保持される。」(第一頁右欄下から九行目ないし第二頁左欄第六行)、「第5図はB´局の信号受信系統を示す。ブロツク7´はA´局からの被変調信号を復調修形して情報パルス列に変換する受信装置……である。ブロツク8´は複数入力チヤンネルの各々から受信された時間軸上配列のパルス列を受信記憶要素102´に書込むために空間的配列に変換する走査装置である。」(第三頁左欄第一三行ないし第二〇行)、「このようにして受信・蓄積された信号は受信動作の空き時間を利用して交換機の共通制御装置11´に並列に送り込まれ、交換情報として用いられる。」(第三頁右欄第五行ないし第七行)と記載され、この記載を第5図と照合してみると、引用例においては、受信装置7´で受信された情報は、走査装置8´より記憶装置10´を経て共通制御装置11´に至る経路をとるものであり、記憶装置10´は、審決のいうように、情報信号を専用に伝送する線路から分岐して情報信号を入力し記録する手段ではないものと認められる。もつとも、引用例の第2図(図面の簡単な説明の欄の記載によれば、第2図は引用例発明の一実施例のブロツク図であり、第5図は第2図のブロツク図をより具体化して信号受信を系統的に説明する図である。)には、記憶装置10´は、受信装置7´から走査装置8´、受信制御装置9´を経て共通制御装置11´に至る情報信号を専用に伝送する線路的手段から分岐して情報信号を入力し記録する手段であるかのごとく表示されているが、この表示は、引用例の前記発明の詳細な説明の箇所及び第5図の記載にかんがみて、不正確な表示、むしろ誤つた表示というべきであり、前説明のように、引用例において受信装置7´で受信された情報は、走査装置8´より記憶装置10´を経て共通制御装置11´に至り、受信制御装置9´は記憶装置10´から共通制御装置11´に流れる信号を制御するにすぎないものと認められるから、第2図における右の表示を根拠に、引用例には情報信号を専用に伝送する線路的手段から分岐して情報信号を入力し記録する手段が記載されているものとすることはできない。
右のとおりであり、引用例には情報信号を「分岐入力して記録する手段」が記載されているとした審決は、引用例の技術内容の認定を誤り、ひいて本願1の発明と引用例の発明との一致点、相違点の認定を誤り、その結果両者の相違点についての判断を遺脱したものであつて、違法である。
三 よつて、原告主張のその余の点についての判断を省略し、本件審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註 その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
訴外中野桂介は、名称を「同時交換方式」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、昭和四五年五月二一日特許出願をし、昭和四六年九月一〇日訴外吉田五郎に右特許を受ける権利を譲渡したところ、昭和五〇年七月四日拒絶査定があつたので、吉田五郎は同年九月二二日これに対する審判を請求し、右事件は特許庁昭和五〇年審判第八二二五号事件として係属した。原告は、昭和五六年四月一〇日吉田五郎から右特許を受ける権利を譲り受けたが、昭和五六年五月七日「本件審判の請求は成り立たない」との審決を受け、その審決謄本は同年六月一〇日原告に送達された。
二 本願発明の要旨
1 縦続する通信系の交換局間において、情報信号を専用に伝送する線路的手段と、該手段に接続されて並列に情報信号を受信する手段と、これを分岐入力して記録する手段と、情報信号を識別して次位局むけの信号伝送路を選択開通する手段とを具備することを特徴とする同時交換方式。
(本判決註 参考のため、願書添附の図面の一部を別紙に図面(一)として末尾に添附した。)
2 前記1記載の交換方式において、自局内制御装置に空き出線を記憶する手段と、入力された情報信号によつて「行き先き」を識別する手段と、その識別によつて該当方面の空き出線記憶手段より使用すべき空き出線をよみ出す手段と、よみ出した空き出線情報を下位局に伝送する手段とを具備することを特徴とする同時交換方式。
3 前記1記載の交換方式において、被呼者又は呼者より臨時的解放信号を発生する手段と、各交換局において当該信号を識別する手段と、当該識別により通信路を随時解放する手段とを具え、更に再接続用信号を記憶するレジスタ的手段と、再接続用信号を発する手段とを具備し、随時再接続しうることを特徴とする同時交換方式。
〔編註 その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
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別紙図面(二)
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